プリズム ‐そしてドラム缶の中で考えたこと-

-5-三万円

僕が目覚めたら、右1メートル35センチ向こうにもう1つのドラム缶が現れていた。

僕は発見と同時に即座にメジャーを買いに走り、その距離を測り、ノートに書き留めた。
隣に引っ越して来たのは、髪が緑の女の子で、最初は誰か分からなかったのだけれども、寝ている隙によく見ると、クラスメイトの香山さんだった。
あまりの唐突に僕は沖岡が放ったスパイかと思ってかなり用心していたのだけれども、それから三日間と言うもの、一言も口を利かないし、出て行けという理由も見つからなかった為に、僕は彼女を黙認する事にした。

黙認すると決めたら僕も男だ。ナメられてはいけないので、ひとこと言ってやった。

「おい!お前を認めてやるぞ」

顔をドラム缶から突き出して、僕は聞こえるように僕はそう言った。
彼女は何も言わなかった。
僕は段々不安になってきた。本当は気弱なのだ。

「ねぇ、認めるって言ってるじゃないか」

「ねぇ、答えろよ」

「ねぇ、何か言ってよ。香山さん」

これでも反応が無かった。
僕はもう狼狽してしまった。
男とは辛いモノなのだ。
男はニンタイなのだ。

そう本で読んだ。

「ねぇー。かやまさーん。どうしてここに来たのー?」
僕はじっと彼女の返答を待った。

すると、しばらくして香山さんは眠そうに顔を突き出してきて、「うるさいわねー。

あなたと同じ理由でイイじゃない!お互いワケわかんないんだから!」そう叫んだ。

僕は同じ理由と言っても、香山さんは僕じゃない訳だし、僕の心の中まで分かるはず無いのに、どうしてそんな事が言えるのかという事を尋ねた。

すると彼女はどうでもいいと言う感じで、「はいはい、そうなんだ、そうなんだ」と言った。

僕はちゃんと答えて欲しかったので、「どうして来たの?どうして?」と返した。

すると彼女は、一度ドラム缶の中に頭を引っ込めて、そして目の上だけを出して僕を睨んだ。
彼女の緑の髪が、月明かりに照らされていた。
僕は視線を逸らする為に、顎を突き上げて、鼻先から桜を眺めた。
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