狼少年の話

「サラ、ごめんな。守ってやるって約束、叶えられなかった。それと、はっきり言ったことなかったけど、だいすきだ」

ルカの言葉にサラは首を横に振っていた。
違う。叶えてくれたよ。
言いたいのに、のどが詰まってて声が出ない。
泣くのを必死に堪えているせいだ。

「…おっさん、ありがとな。ドクじいちゃん、ごめんな。じいちゃんのせいじゃないからな」

言葉を続けるルカの声は聞いたこともない程に穏やかで、サロメもドクもただ見つめ返すことしかできずにいた。
そして漸くサラは声を絞り出すように言った。

「ルカ…。違うよ…。ルカはずっと私を守ってくれてたよ。そして願いも叶えてくれたんだよ。ルカは何も間違ってない。何も悪くないよ…」

そこまで言って、サラの目から涙が落ちた。
最後に詰まりながら言った、“だいすきだよ”は聞こえただろうか。
涙で歪む視界の中、揺れ動くルカが足元から落下するのが見えた。
縄で吊るされたルカに、悲鳴が次々に飛び、役人に対して義憤の声が上がる。

「ルカ…!」

堪えきれず、顔を覆ってその場にしゃがみこむサラに、サロメも同じようにしゃがみ、そっと背を撫でた。

たいまつに照らされた処刑台からルカが降ろされたのは、それから1時間後だった。
その間ずっとサラはその場から離れず、何も言わずにサロメとドクは一緒にサラの背を撫で続けた。
ただドクはサラの言葉が気になっていた。
“願いを叶えてくれた”
サラがずっと願っていたこと。
それが叶ったということは。
…サラ。まさかお前まで死ぬ気なんじゃなかろうな…。
不安は増すばかりだが、果たして自分にとめることができるだろうか。
ルカのことドクは自分の無力さを思い知り、矜持をも失いかけていた。

処刑台の周りに残っていたのはサラ、サロメ、ドクと役人が数名。
風の音すらも聞こえない、静かな夜だった。
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