狼少年の話

「こら!何しとるんだね!」

少しかすれた男の叫び声が聞こえ、それに驚いた男の子は木にかけた足を滑らせ、後ろにすっ転んだ。

「いっててて…。誰だよ……げ」

今しがた打ちつけた尻をさすりながら振り返ると、見知った男と見知らぬ少女が立っていた。

「お前…ルカじゃないか。こんな所で何をしているんだ」

「ドクじいちゃん…」

見知った男はクシャナ村の村長で、名をドクといった。
だがルカはドク村長よりも、隣に立っている少女の方に気を取られていた。
背中まであるサラサラの髪に白いワンピース。
そして左腕の指先まで巻かれた包帯。
年上だという事はすぐに分かった。
10歳のルカには少女は大人っぽくて清楚で、可憐で、物腰柔らかそうで、おしとやかそうで、色鮮やかな花が似合う…。
この前女好きの兄ちゃんが、女の子はこうあるべきだと話していたものをとにかく思い浮かべて、ルカは胸が熱くなるのを感じた。
これが兄ちゃんが言ってた情熱ってやつか?
1人で勝手に熱くなり、驚き衝撃に満ちた目で少女を見つめるルカに、少女は一言言い放った。

「それ、うちの桃…」

―それが2人の出逢いだった―
< 5 / 31 >

この作品をシェア

pagetop