空へ
私は、それからすぐに静岡から東京へと引越しをすることにした。

陽菜が死んだ事故は、親父の過失ではなかった。

しかし親父は、自らを責め、トラックの運転手を辞めた。

「すぐに東京に引越そう」

親父が突然そう言った時、私は内心ホッとした。

良美と努に会って、今まで通りに接することが出来るとは思えない。

いや、私が変わらなく二人に接することが出来ても、あの二人はきっと違う。

私は、今までとは微妙に違う対応をする二人を想像して、恐怖した。

そして、そんな二人を見てしまうくらいなら、どこか遠い所へ行きたいと思った。

私の家族は、父親だけ。

お母さんはいない。

だから、私の二言返事で、私達親子は東京に行くことが決まったのだった。



それから半年後、私は再び静岡の地を訪れた。

−陽菜に会うために。


陽菜のいる墓場に行くと、誰かが墓の前にいた。

−努だ。

私は咄嗟に身を隠した。

努は、墓に向かって座り込み、何かを話していた。

「−しかし、もう半年も経つねんな…。陽菜、お前がおらんようになって、良美はまた、何もしゃべらんようになってもうたやんかぁ?」

え、嘘…。

「まだあいつ、俺が話かけてもな、全然何も話よらんねん。俺、良美に嫌われとるんやろか…」

そうだったんだ…

良美は、また…。

「ほな、今日の報告はこんなけ。また明日も来るわ」

努はそう言って、立ち上がった。

努は、毎日ここに来てるんだ…

あ、やばい。
見つからないようにしないと…。

こちらの方向に向かって来る努と出会わないように、私は他の墓石に身を潜めて、努が通り過ぎるのを待った。

努がすぐ側を通過して行く。

…やり過ごせたか。

私は、努が戻って来ない事を確認した後、陽菜の墓の前に行った。

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