ハナウタ
授業中僕の方からメモを渡すのはこれが初めてだった。

相手…九ノ月サンはあっさり放課後残り、しばらく二人して教室の隅の自分達の席に並んでぽつねんと座っていた。





実の所、一緒に帰って何が言いたかったのか、よくわかっていない。


なんとなく、

あぁ、やっぱりこの教室は西日が強いんだなぁ、

なんて考えながらぼんやりしていると沈黙に耐性の弱いらしい彼女の方から口を開いた。




「同情してるんだったら、はっ倒すよ」



意地を張ったようなつっけんどんなその言葉に思わず苦笑する。



「この前までの事も、謝る気ないから」

「良いよ。別にそんなこと」




予想していない答えだったらしく、彼女は何かを無理に飲み込んだような反応をした。
言葉に詰まっているようなので、先に言わせてもらおう。




「僕は柏原を友達として好きだから故意に離れる事はしたくなかった。
でも恋愛感情を持って柏原を好きでいる九ノ月サンはそんな僕が邪魔で不穏分子だった。
その結果だもん、しかたないと思ってる」


そう、しかたない。
そうすんなり思えたのは、"あのこと"があったからだ。



「…だけど」


僕は一度そこで言葉を切る。
こんな長く一人で喋ったのは久しぶりだ。
あの時は伝えられなかった。

今度は、正確に伝えたい。
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