君を忘れない
歌い始めたら緊張がどこかへ消えてしまった。

精一杯歌っているつもりなのに、自分の歌声が遠くで誰か別の人が歌っているように聴こえる。

窓の風景がやけにゆっくり流れているように見える。

いや、時間そのものが全てゆっくりと流れているように思える。

全く知らない人の前で、しかもこれだけの大人数の前で歌ったことがない。

歌手がライブをするとき、こういった感覚なのだろうか。



今、目の前にいる人たちが盛り上がっているかどうか分からない。

でも、それでも僕は歌う。

たとえ、本来なら僕の隣で歌っているやつがこの車両にいなくとも、この歌が聞こえなくとも、きっと伝わるはずだ。
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