君を忘れない

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普段なら聞いているだけでテンションが上がったり、時には心が落ち着くエンジン音なのだが、今だけは何の効果もない。

いや、きっと効果はあるのかもしれないが、それらが全く耳に入ってこないというべきか。

かよっぺは初めての競艇場で、初めての競艇のレースを見て興奮していた。

僕もいつもなら興奮しているのだろう。



遠くを見てはため息をつく。

先ほどから、一体これを何回繰り返したか分からない。



さっきのハマに、僕は何かが引っかかっていた。

いつもと違っていたという感じではないし、こちらに気を遣い無理をしているという様子でもなかった。

だが、どうも何か違和感のようなものがあった気がしてならないのだが、それが分からない。


「競艇って、思っていたよりもスピード感あるし、迫力もあって面白いね」


こっちがハマのことを考えて悩んでいるというのに、無邪気な笑顔でこちらを見てくる。

羨ましい奴だ。



いや、かよっぺの性格はそんな無神経ではない・・・

と思う。

となると、元気の無い僕に気を遣っているのだろうか。


「だろ?

スピードとか、直線で最高八十五キロくらい出るんだよ」


気を遣っているかよっぺを困らせたくはないから、笑顔で自慢げに答えた。

ため息ばかりついていては、一緒にいても面白くないし、かよっぺだってハマのことを全く心配していないわけじゃない。


「凄いね。

これがトラさんの目指しているものかぁ」


実際にレースを見ながらそう言われると照れる。

これが、僕の目指している競技であり、目の前で走っている選手たちが僕の目標であるのだ。
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