結婚式


その頃でアスランは、花婿の控室で、用意を始めていた。

「レイナード伯爵」

「……フィリップ陛下」

そんな彼に、年老いた男性が声をかけた。
威厳のこもる声に、立っているだけでにじみ出てくる品格。
アスランの義父に当たる隣国の王フィリップがそこにいた。


「噂どおりに、キミは美しいね」

「あ、ありがたきお言葉です。陛下」

長らく敵対関係にあった国の王とこうして穏やかに会話できる。
それは、戦争が終わったから。その証として自分は結婚する。

避けられない結婚。断ることはできない。


「陛下と呼ばないでくれ。今日からは親子となるのだから」

「で、では……ち、父上……と」

『父上』。義理の父となる目の前の王。
呼ばなくてはならない。この結婚を受け入れなくてはならない。
『父上』という言葉を口にした時に、唇が震えるのを感じた。


「ああ、それでいいんだ。すこしのんびりすぎる子だが、娘をよろしく頼むよ」

王は手を差し出す。

言わなくてはならない。頷いて、握手をしなければならない。
なのに、手が動かない。嘘をつきたくないと抵抗している。

「どうしたんだ? レイナード伯爵」

「いえ、なんでも……。こちらこそ、よろしくお願いします」

笑顔を無理矢理作り、お辞儀をした。
手を握ることが、できなかった。



心の中にあるのは、彼女の姿。
笑顔が見たい、声が聞きたい。彼女の体を抱きしめていたい。

もう、それは叶わない。


今日、自分は異国の姫と結婚する
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