ラズベリー


部屋のドアを閉めて、階段を下りると

コーヒーと、焼きたてのパンのいいにおいがした。


「おはよう、麻衣」

「お母さん おはよう」

パンをほおばるあたしを見ながら

お母さんは言う。

「麻衣・・・今日も遅いの?」


いやな予感がしたのはあたしだけだろうか。

「うん・・・今日は土曜日の大会に向けてね。」


今度の土曜に、あたしは大会に出る。

今日(いつも)はその部活で遅くなるから

お母さんは心配してくれてる。

「そっか・・・」

けれど、今日のお母さんはいつに無く変だ。

「どうしたの?」

「・・・最近お父さん、遅いでしょ?」

確かにそうだ。

お父さんは、結構いい会社の部長さん。

あたしはお父さんが好き。

尊敬してる。


かっこいいし、スポ万だし・・・

空くんと重ねちゃう。

「うん・・・」

「実は・・・会社が危ないのよね。まだ麻衣と春樹のことは何とかなるけど・・・。将来的にね」

春樹とは、あたしの弟。

かわいくなくて、サッカーヲタ。

でも、やさしいとこもある。

「そうなんだ・・・」

あんなに大きな会社なのに、

とあたしは不安と戸惑いを隠せなかった。

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