【完】TEARS−ティアーズ−


「郁君、遅刻とはいい度胸だなぁ」

「うるせー」



朝練が終わって、教室の自分の席で眠る体勢の俺を悪友……

じゃなく、部活仲間の正宗(マサムネ)が茶化してきた。



そう、あの後。



必死に走ったのも空しく、朝練に遅刻して。

時間に厳しい監督からは怒られるし。

宮坂はあからさまに無視するし。

仲間にはからかわれるし。


んっと、ツイてねー。



不貞腐れた俺は、寝ることにした。

遅刻の罰としてトラック10周まで追加されて、朝からすっげー疲れたし。

宮坂のことで何か疲れたし。



「なに郁、寝るの?」

「おー」

「郁寝たらツマんないじゃんー」



『勉強しろよ、正宗』って言葉は眠すぎて言うのもダルイ。



ツマラナイ授業をする担任の声。

カリカリと響くシャーペンの音。

たまにめくられる教科書の音。


それが、まるで子守唄のように聞こえて。



どんどん襲われる睡魔の中。

ふと、朝の変な女を思い出した。


あの女。
宮坂との話聞いてたよなぁ。

もしあの女が噂好きな奴だったら面倒臭ぇなぁ。

宮坂はやたらとプライドが高いから、そんな噂たてば怒るだろうし。


俺に出来る事といえば、あの女が噂好きじゃない事を祈るだけ。


それにしても面倒臭ぇとこ見られたなぁ。
< 17 / 371 >

この作品をシェア

pagetop