【完】TEARS−ティアーズ−
「なに? 何か怒ってんの?」
ほとんど喋らない帰り道。
それでも郁君は、あたしを送ってくれて。
そんな優しさに、いつもならキューンてするのに、今日は苦しい。
「別に怒ってないけど……」
「なんだよ、言いたい事があるならハッキリ言えば?」
郁君の声がイライラしてるのがわかる。
「そんな言い方されたら言いにくいもん」
「じゃあなんて言ったらいいわけ?」
はぁっと大きな溜息を吐いた郁君を見て、あたしの目には涙が溜まる。
「サッカーの試合に出られないかもしれないのは、あたしのせいだよね?」
「はぁ?」
「本当はもっと練習時間長いんじゃないの?」
「はぁ? お前なに聞いたの?」
「聞いたとか、聞いてないとか、そういうんじゃなくて……」
ちゃんと答えて?
もしそうなんだったら、ちゃんと練習に出て欲しい。
一緒に帰れなくなるなら、あたし朝早起きして一緒に登校するもん!
それくらい、あたしだって頑張れるもん。
「別に俺の事だから、俺が決めれば問題ないだろ?
もういいって。その話は」
「よ、よくないと……思う」
語尾が弱くなったのは、郁君の顔が恐かったから。
凄く怒ってる顔をしてたから。
「何だよ、乃亜も宮坂と同じこと言いたいわけ?」
「なんで、なんでそこで宮坂さんが出てくるの?」
「は?」
「郁君、何も言ってくれないし。嘘吐くし……、あたしは何を信じたらいい?」
郁君がちゃんと話してくれたら、あたしは信じるよ。
「ちゃんと言ってるだろ? てか嘘って何だよ」
「郁君、宮坂さんと……ちゃんと別れたって言ったよね?」
「ああ」
「でも、本当はちゃんと話してないよね?
自然消滅だったんだよね」
「それはっ」
その瞬間、ずっと我慢していた涙が零れ落ちて。
泣いてるところなんて見られたくなくて。
「もういいよ、宮坂さんとまた付き合ったらいいんだよっ」
なんて目茶苦茶な事を言って、あたしは家へと走った。