時空の森と悪戯な風

周りは薄暗くなっていた。
早く森を出なくちゃならない。



「怖いなぁ…」



出口に向かって小走りした。
すると前の方から圭介が走ってきた。



「どうしたの?!」



「駐車場見たら弥生の車があったから、もしかしてと思ったんだ」



「そうだったんだ、ありがとう。暗くなってきたから、少し怖かったんだ」



手を繋ぐこともなく、ただ圭介と並んで森を出た。



「圭介、ちょっと話があるんだけど…」



「いいけど、弥生の家に戻ってからにするか?それとも、ここで話すか?」



「じゃ、ここで」



圭介の車に乗って話をする事にした。



「会いたい人に会えたのか?」



タバコに火を点け、煙を吐きながら聞いてきた。



「会えたよ」



森を見ながら答えた。



「良かったな…で、話って?」



実は…と前置きしてから圭介の方を向いて



「明日、アタシと一緒に来て欲しい所があるの」

と言った。



「明日か…分かった。時間は?」



「お昼過ぎからでいい?」



「うん。で、どこに行くんだ?」



「お墓参り」



“誰の”とは言わなかった。



圭介は多分、父のお墓参りだと思ってるだろう。



アタシの口から智治の事をちゃんと話した事もないのに“元カレに呼ばれた”なんて言える筈がなかった。





< 57 / 92 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop