うらばなし

「うぅ。だからそれも、嫌なんです。リヒルトさんを餌として見たくないんです……」

「その分別はきっちりついているはずだ。僕も君も。君の延命のために必要なこと。食事の表現が嫌ならば、呼吸と称してもいい。君は、僕がいなきゃ生きられない。ーー生きては、いけないんだ」

「それは、リヒルトさんが私を召喚して、従えてくれたあの日から」

「主従の話でまとめちゃうんだぁ。鎖で繋がれたいんなら、そうしてあげる。他の奴の血を飲みたい言い出す君を、閉じ込めようねぇ。君の呼吸は、何日持つかな?」

「お、怒ってます……?」

「当然。少しでも痛くないよう首筋の皮膚を舐めてふやかし、ごめんなさいと言いながら、恐る恐る噛み付いて、ゆっくりと涙を流すのと同じ間隔で血を飲み、小瓶ほどしか飲んでないのに、またごめんなさいと言いながら、部屋の隅っこで震えて罪悪感に打ちひしがれる可愛い君の姿を他の奴に見せちゃうんだぁ。罪悪感あるから吸った人の願いを何でも叶えようとしてくれる君だけどーー他の男に、昨日の僕みたいなことをしてあげるの?」

「きゃーきゃー」

「はいはい、冗談冗談ごめんなさい。他の奴の血を飲むのはやめなさいねぇ。昨今、不摂生だかで、血液ドロドロな奴が多いから。まずいよ」

「うっ」

「その点、僕はトトちゃんに美味しいものを提供したいから、わざわざ栄養士の資格取って、毎日の食事に気を使っているし。血液サラサラになる健康食品やサプリメントも飲み、さらには健康維持のためにマラソンだって欠かさずにして汗を流し、規則正しい生活を送っている。おかげで、この前の健康診断で体内年齢10代とか言われちゃったよぅ」

「わあ、凄い!私を召喚した時は、健康診断でお医者さんに注意されていたのに、頑張りましたね!ーーじゃなくて!」

「綺麗なノリツッコミだねぇ」

「美味しいとか不味いとかではなく、私は……大好きな人の血を飲むのがどうしても、嫌なんです……。いくら健康的でも、血を失うのは体に良くない。下手したら、死んじゃうかもしれないんですよ!」

「飲まなくてトトちゃんが死んだら、それこそ本末転倒だよ。トトちゃんが、僕なしでは生きてはいけないように、僕もまた然り。トトちゃんなしでは生きられないねぇ。他の奴の血を飲ませる気も毛頭無い。ーーね?だから、この話は止めよう。本気で、トトちゃんを“どうにかしなくちゃならなくなる”」



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