うらばなし
2015年です

ーー

五十鈴「明けまして、おめでとう」

渉「おめでとうございます」

藤馬「なに、二人して深々やってんだか。おら、奥さま。正座してんなら、こっちで酌しろ。今日は、それっぽい格好してんだからよぅ」

五「新年の挨拶も出来ないのか、お前は。こら、腕を引っ張るな。シワになる」

渉「五十鈴さんの着物、とっても綺麗です。やっぱり、赤色がよく似合いますね」

五「そ、そんな面と向かって言うな。普段着ないものだから、指摘されると反応に困る。お前だって、着物じゃないか」

渉「冬月くんから貰いました。何でも、お揃いだとかで。これを来て、これから初詣に行ってきます。羽織りは藤馬さんと同じ黒地で袖には錦鯉ですよ」

藤「人様のセンス真似るんじゃねえよ」

渉「凄く格好いいと思いませんか?」

藤「だあれのセンスだと思ってんだか」

五「そうか。渉は友人と初詣に行くのか……」

渉「五十鈴さんも良ければ一緒にーーって、そうですよね。生きた人間と関わるな、という掟がある以上、初詣でごった返す人の中に行くわけにはいきませんよね」

藤「現在進行形で掟破っている死神失格女に、何言っちゃってんの?」

五「藤馬に、正論を言われるとは……。私は、やはり」

渉「新年早々落ち込む展開に持って行ってしまい、すみません……」

藤「死神の頭にバラされたくなけりゃあ、今晩は俺の言うこと聞けよー。着物は脱がすの楽しいからな」

五「誰がお前なんかに!」

さざめき「お代官様100%。ーー内訳、よいではないかーよいではないかー50%。お主も悪よのぅ40%。扇子パチン10%」

藤「俺の帯を外しにかかるな、カスビンゾコがっ」

さ「脱がすの楽しくないが?」

藤「逆に楽しめんなら、てめえを即刻呪い殺してやるよ!」

渉「さざめきさん、明けましておめでとうございます」

さ「明けまして、おめでとう。で?100%」

渉「え?」

さ「内訳、どうかなどうかな50%。おかしくないかな40%。わたるんのために早起きしたんだから10%」

渉「あ、えっと。あ!さざめきさんの紋付き袴も渋くて格好いいですね」

さ「さて、誉めてもらえたし脱ぐか」

藤「脱ぐなっ」

五「あ、阿呆んだら!節操を弁えろ!」

さ「なるほど、帯を外すのが楽しいとはこのことか」

渉「周りの反応を楽しまないで下さいよ……」

藤「ったく、奥さまの着物脱がしに来てみりゃぁ、いつも通りに騒々しいな。ここは気ぃ使って、ガキとビンゾコは出かけるもんなんじゃねえの?」

渉「ここ、春夏秋冬家なのですが……」

さ「いっそ、藤馬を置いて海外旅行に行かないか。お利口にしているんだぞ、藤馬」

藤「なあ、そろそろてめえも死にたくなって来たってことか?」

渉「というよりも、藤馬さん。さっきから気になっていたのですが、部屋の隅に置いたあの箱はなんですか?」

藤「あ?ガキとビンゾコが出ていったら開けてやるよ」

さ「びっくり箱100%。ーー内訳、『きゃっ』となる五十鈴さんが見たい70%。『お、ま、ええぇ!』と怒られたい願望30%」

五「最低だな、お前は!」

藤「勝手にねつ造して真に受けてるんじゃねえよ!ほら、さっさとこれつけろや!」


五「こ、この、びっくり箱を投げつけるなーーって」

渉「びっくり箱じゃないですね。中は、花?」

藤「てめえの左目、人間時は常時閉じられているから見栄えわりいんだよ。俺の奥さまのくせに、醜いとかまじ勘弁。臭いものには蓋。醜悪なら隠せ隠せ。そうすりゃ、少しはマシになんじゃねえのぉ?」

五「な、な、な!」

渉「五十鈴さん堪えて。あれは藤馬さんの照れ隠しですから」

さ「にしても、花束でどう目をーーん?ああ、これ、髪飾りか」

渉「留め具ありますから、頭につけるんでしょうけど、随分な量ですね」

五「肩がこりそうだ」

藤「ごちゃごちゃ文句言ってねえで、さっさと結えや!ほら、中身ねえ頭貸せ」

五「さ、ささ、触るな!か、髪にそう触るなと、阿呆んだらぁ!」

さ「頭なでなでされるのが弱いタイプだったか」

渉「そう言いながら、なんで僕の頭を撫でているんですか、あなたは……」

さ「暇つぶし100%。ーー近くにいたから50%。とりあえず、わたるんに会ったら撫でとけ50%」

藤「いっ!て、てめえ、引っかくな!」

五「ならば、貴様は触るなとーー」

渉「わあ。五十鈴さん、凄いですよ!」

五「な、なんだか、左側がこそばゆいのだが」

さ「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは?」(鏡差し出し)

藤「俺の所有物に決まってんだろ」

五「な、なんだこれは!藤の花か?」

渉「花垂れが、閉じた左目を隠す形になっているんですね。色も白と桃色の配色で、綺麗です」

さ「また豪勢な髪飾りだな。これ、生花か」

藤「造花なんぞ使うか。萎れねえよう、手え加えているから、しばらくつけてろ。醜悪隠しになるぜ?」

五「……」

渉「さすがの五十鈴さんも、怒る前に見とれていますね」

五「い、いいのか。こんな大層なものを貰っても」

藤「酌しろ」

五「っっ、するか!」

さ「はっ、気づいた。藤の花たる由縁、それは藤馬の名前から取ったという、藤馬らしいオヤジギャグが」

藤「はい、けってー。てめえ今年一年不幸だからよ。不幸になる呪いかけてやったからー」

さ「なるほど。藤馬がいれば、初詣知らずか。みんなー、藤馬に賽銭投げれば、今年一年安泰だってー」

藤「棒読みで気持ちわりい話し方すんな!」

五「こいつが、人様を幸福にする奴か。ーーだ、だが、この花飾りは、その、恩に着る」

藤「ありがとうぐれえ可愛く言えねえのかよ」

さ「ひゅーひゅー」

渉「さざめきさん、そろそろ自重しないとっ。藤馬さん、一升瓶投げつけようとしていますよ!」

さ「仕方がない。藤馬に十円投げて、お祈りするか。藤馬と遠い縁になれますように」

藤「なってやるよ!もう会えねえように、てめえを遠い場所に送ってやろうか!」

さ「さあ、渉くんもお願いごとするといい。藤馬神は一円賽銭でも受け付けてくれる。小物だから」

渉「一円はともかく、そうですね。これは藤馬さんにしかお願い出来ないことですから」

藤「ああ?誰か呪い殺してほしいのかよ」


渉「藤馬さんがーーいえ、みんなが、今年も健康で、僕とまた過ごしてくれますように」

藤「っー!」(鳥肌)

さ「藤馬にダメージ100%。ーー内訳、薄汚れた精神に50%。悪党自尊心に40%。喜びたいのに素直に喜べない苦しさ10%」

藤「てめえはいい加減、酒でも被って黙ってろや!」(一升瓶投げ)

五「さざめきの顔面に一升瓶が!?大丈夫か!」

渉「いきなり願いが叶わない新年ですか……」


 


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