うらばなし
あなたという人は……


その子は他の兄弟よりも、明らかに一回り大きかった。

産まれてまだ一年も経っていないはずなのに、お腹を摘まめるほどのぜい肉がついてしまって。

けれども、私が料理をしている時に真っ先にシンクの上に上ってくるのはあなたでした。そんな重いお腹で飛んでくるあなたに、私はいつもびっくりして、まな板で切っている魚を奪われまいと必死になったり。

体を洗ったあとに逃げ出したと思ったら、びしょびしょにされた復讐に、その体で私の布団を亡きものにしましたよね。

ある夜に布団の中に入りたいと枕元まで来たあなたを私はちょっとしたいたずら心で狸寝入りをして、あなたの様子を窺っていましたが、まさか瞼を踏まれるとは思いませんでした。私の狸寝入りを見抜いたのですね。

腹筋しているときに私のお腹目がけて棚から降ってきた時には、餌を安いものにしたあなたの腹いせだと思っております。腹だけに。

部屋に入ってきた虫狙いで障子を突き破ったあなたのネコパンチの威力に脱帽したのは、つい先日のことでしたね。

覚えております、鮮明に。名前負けどころか名前越えをしてしまったようなあなたの体のふかふかさは忘れません。


ですから、あなたの早い帰りを待っております。少し高い猫缶を準備していますので、どうか無事に……ぶじに、帰って……


< 492 / 1,773 >

この作品をシェア

pagetop