かたっぽうの恋
吾妻 理一
物置部屋には、なぜかキッチンがあった。
その部屋から、食器を取り出す音が聞こえる。
「コーヒーでいい?」
隣の部屋のソファーに座っている私に聞こえるように、うるさくないくらいの声で実習生さんが喋る。
「いえ、お構いなく」
「オレンジジュースもあるぜ?」
何か飲まないとダメみたい。
「じゃあ、オレンジジュースいただきます」
「はい、かしこまりました」
「座ってて」と言われたけど、
なんだか落ち着かないなぁ、
部屋の中をキョロキョロと見回してみる。
物置の部屋には窓があって日当たりが良かったけど、
こっちの部屋には窓が一つもなくて、電気をつけないと真っ暗になる。
アンティークのテーブルに、
二人用のダークグレーの肌触りの良いソファーが2つ。
部屋の隅にはフロアランプがある。
床にブラウンのカーペット、
あとは何もなくて、落ち着いた雰囲気が漂う。
コンコンコン、と 壁を叩く音がした。
「部屋の中見回して、この部屋初めて来たのか?」
グラスの乗ったトレイを持った実習生さんが、
物置の部屋の入口に立っていた。
「は、はい、初めて来ました」