苺のお医者さん。
 「とにかく早く行ってきなさい!」
 「うーい。あれ、このお菓子何?」
 「おばあちゃんが大量にくれたのよ。」
 …ケースに「GARIっとるるるん☆せんべい」ってあるけど。きっといらなかったんだなぁ。いいのかお隣さんにあげて…。
 「ほんの挨拶代わりだから。これからお隣同士よろしくってね☆」
 それを言うならもう少しましなお菓子を…。
 「さっさと行け。」
 「わかりました。」
 すごすご私が玄関に向かうと、お母さんが思い出したように言った。
 「そうそう。制服で言ってきてね。」
 「は?!なんで?!」
 ちなみに今の私はハートがあちこちにプリントされたピンクのパーカーと下は黒に白いラインが左右2つづはしっている中学ジャージという、てきとうな服。
 別にこれで外出ても恥ずかしくないけど(←私は。他の人は大反対だって。なんで?)
 「なんか、参考になるって。」
 「意味分かんないけど!」
 
と、いうことで、私は、いつも学校行くときにしている、後ろの髪を頭の上でおっきいお団子にまとめるヘアーにして、スカートが水色のセーラー服を着て行った。この制服は気に入ってるんだけど、着替えるのはめんどくさいんだよね…。
玄関を出て、すぐ隣、アパートの1階(このアパートは2階建て)のはじっこの部屋の前に立つ。お隣=はじっこの部屋なんだ。
 私は少し緊張して(だって制服で来いとか言った人だもん。変な人に違いない!!)チャイムのボタンを押す。頭の中では「いかのおすし」を必死に思いだそうとしている。
 ピンポーン…
 すぐに鍵のあくガチャッて音がした。
 そして、ドアが開く。
 その時だった。

 ふわっ…と、かすかに、甘い香りがした。
 あまくて、でもほんのり酸っぱい、小悪魔のようなにおい。
  
 苺。
 
 その時に、
 私の頭の中にあった「いかのおすし」も、変な人だという憶測も、
 涙がかわくくらいの間よりも早く、消えていた。
 
 彼に初めて会ったのはその直後でした。 
      



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