スマイリー
10 藍さん再び
「や。久しぶり」



どす黒い夕闇が背後に忍び寄る中、改札口から少し離れた自販機の隣で待っていた進は、藍が最初に発したセリフに対して何とも形容しがたい複雑な気分を覚えた。



事実関係としては2ヶ月ぶりだ。“久しぶり”という言葉が最も妥当するところではある。



なのに、進の実感としては昨日会っている。ただし夢の中で。不思議な違和感があるのはそのせいだ。



夢の中で、昨日進は藍に告白したのだ。今目の前にいる藍はそんなこと知るよしもないが、進にしてみれば、告白の翌日に顔を合わせるのは妙に恥ずかしい。



「ホントにご飯誘ってくれるとはね。たまたまバイトなくて助かったよ」



2ヶ月近く前、10月の終わりに偶然ふたりは再会したのであるが、その時に進が“メシをおごる”と藍に約束したのだった。



「高いものは無理ですよ。ファミレスで構いませんよね?」



「構わん構わん。高校生の財布事情くらい、分かってるつもりよ」



ふたりは、進の家の最寄り駅から1時間弱電車を乗り継いだ先の、都心部の駅前の改札で待ち合わせしていた。そこからの方が県外に住んでいる藍が帰宅しやすいのだ。



「じゃあ、行きましょうか」



「おー!」



藍はノリ良く握りこぶしを高々と挙げて、進の隣を歩き出した。



その笑顔はやけに眩しくて、建ち並ぶビルのネオン、大通りをひっきりなしに行き交う自動車のライト、歩道の街灯、夜の街を華々しく彩るどの灯りよりもよっぽど美しく、そして明るかった。
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