スマイリー
4 藍さん
角を曲がった直後で助かった。

咄嗟に進はそう思った。やはり有華にこの場面は見られたくなかったから。


「あら、ちょっと背ぇ伸びたんじゃない?」


藍は背伸びをして、進の頭に手を置いて言った。

その行動の可愛らしさに、本人が気付いているのかは定かではないが、一方の進は固まったまま、されるがままとなっていた。

「んー、それともあたしが縮んだのかな」


進はまだ言葉が出ないでいた。あまりの不意打ちに、全身の筋肉が完全に硬直してしまっているようだった。


「いつまで固まってるのよ」


「いてっ」


藍が進の頭の上に置いていた手で、そのまま進の額を軽く小突いた。


「陸上部の長距離エース、市川藍さまだぞ。大先輩だぞ」

進は少しほっとした。


卒業する前と全く変わっていない。


「元エースね。それと、大じゃなくてただの先輩」


「おっ、やっと進らしくなってきたじゃない。そりゃあ驚くわよね。あたし変わったでしょ?あたしって分からなかったでしょ?美人過ぎて」


「…めんどくさい性格は全く変わってないみたいですね」


藍は変わらない。髪型も、背丈も。美人なのも以前からずっと変わらない。


藍が言うように以前より美人にならなくても、もう十分なのだ。


「あんたもその生意気なとこ、変わってないわね」


「いてっ」


再び藍は軽く進の額を小突いた。これも変わっていない。中学の頃に戻ったような錯覚が、容赦なく進を襲っていた。
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