スマイリー
2 確かな情報
翌日。



進は背中をとんと叩かれて目を覚ました。



叩いたのは、後ろの席の小島あきらだった。



「そろそろ当たるぞ」




数学の教科担任は、名簿順に生徒を指名する。だから自分がいつあてられるかだいたい分かる。



「さんきゅー。今だれ?」



「やっくん」



「おー。ナイスタイミング」



目をこすって黒板の上方に目をやると、煩雑に書きなぐられた数式たちの上の時計は10時25分をさしている。



“だいぶ寝ちゃったな”



その日は土曜日であったが、受験生の進たちにとっては土曜も日曜も関係ない。週末はここのところ補習授業と模試で埋め尽くされている。日々の疲れが限界に達したのか、教室内にも空席が目立つ。



有華の席も空いていた。



「大崎―風邪かな」



独り言があきらに聞こえたようだった。



「なんだお前。大崎はやめとけよ?競争率高いし」



あきらは見るからに楽しんでいたが、進が気にするほどあきらに悪気があるわけではない。



「そうゆうわけじゃないけど。昨日世話になったからね」



昨日から、進は体がなんとなく軽かった。恋だの愛だの面倒だが、有華のおかげであることは確実だった。



「は。お前、なんかしたのか?」



「…ばぁか」



「おーい、うるさいぞ」



数学の教科担任の吉川が気付いた。



「前島、小島?なにやってんだ」



この穏やかな微笑みから、恐ろしく威圧的な空気を発するのが吉川の特徴だ。



「す、すみません」



平謝りしたものの、しばらく立たされることになった。
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