オレンジ*ロード








『私ね…急性リンパ性白血病になっちゃった』



一瞬の事で聞き逃してしまいそうになった

両手で握っていたはずの彼女の手が離れ、逆に彼女が俺の両手を握った



『私ね、白血病なんだって』


もう一度言った彼女の目は俺の瞳を強く捕らえていた


“白血病”

名前ぐらいは聞いた事があるし、テレビやドラマで何回かその症状になった患者を見た事がある


信じられない現実の中で、心臓の音だけが俺に現実なんだと知らせていた



『……た、ただの風邪じゃなかったの?だって1週間の検査入院って……』


俺は情けないぐらい動揺していた


きっと絶対、彼女自身が一番動揺しているのに情けない程俺は……



『今日血液検査の結果が出たの。でも初期の段階なんだって。だから大丈夫だよ』


何度も聞いた彼女の“大丈夫”

俺は初めてその“大丈夫”を信じる事が出来なかった


彼女の1週間の検査入院は延長し、薬で効果が出るまでこの病室で過ごす事が決まった


病院の帰り道、俺は一人になりやっと状況を理解しようとしていた


身近で起きる訳ないと思っていた

まさか彼女が………

そんなはずないとそう思いたかった


確かに大きな病名で、俺はそれに負けそうになってる

だけど彼女は負けていなかった


そうだ、これはただ彼女の具合が悪い原因が分かっただけ


分かっただけで、それ以上は何もない

何も起こるはずない


そう必死に言い聞かせた





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