オレンジ*ロード




あまり自分の要望を言わない彼女の珍しい発言だった


“オレンジロード”

俺も知ってはいるけど実際行った事はない


この町から70キロ程離れた場所にあるサイクリングロード

しかしそのサイクリングロードがオレンジロードと言われている訳ではない


そのサイクリングロードは初級、中級、上級と道の難易度が分かれていて、遊びではなく本格的に営業しているレジャー施設だった


上級者向けの人が最後に辿り着くのは小高い山の上、
そこに辿り着く頃には丁度日が落ちて辺りはオレンジ色に染まるらしい


山の上から見える景色はこの田舎町を全て見渡せる事が出来て、帰りはオレンジ色になった道を下って帰るのだと言う


それが有名なオレンジロード


サイクリングを趣味としている人でさえ登るのはきついという程だ


俺の周りの大人も友達も知っている人でさえ、登ったと聞いた事がない



『じゃぁ、今度一緒に行こうか』

俺の返事は決まっていた


もしかしたら彼女は本気で言ったのではないのかもしれない


だけど無理だと分かっていながら彼女がその場所に行きたいと言った理由が分かったから



『きっと今まで見てきたどの風景よりも綺麗だよ』


彼女が見たいのはオレンジ色に染まったこの町の風景


自転車で通った田んぼ道よりも

学校の窓から見えた景色よりも

立ち尽くしてしまう程綺麗だった夕焼けよりも

ずっとずっと何倍も綺麗だと思うから



『じゃー約束ね』

彼女ニコリと笑い、小指を出した


『うん、約束』


俺達の小指が固く結ばれた


それと同時に病院の窓から夕焼けが射し込み、俺達をオレンジ色に照らしていた



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