輝く季節へ
 
 間違い電話から約一ヶ月半後。
前例があったので、最初からある程度
覚悟はしていたことを伸治さんは口にした。
バーチャルの世界から、
私を現実に引き戻すように・・・。



 好きだから会いたい、
   付き合って欲しい・・・

と言われて、なんか違う気がしてきた。
私もこうやって毎日話すのって
キライじゃないし、
本当に楽しかったし。


でもやっぱり彼は、
空想の世界よりも現実の五感を
共用することを求めてきた。

それも全て覚悟の上だった。
こんな―仮面の会話で恋をしたり。
不信感がついては離れない関係だったり。

会ったこともないし。
会うつもりもないし。
半分くらい嘘の自分を投影していたり。



あなたの期待に応えることは、
今後おそらく一切できない・・・
って、そう言ったのに。


 

 告白、



 いくら彼が真剣じみても ―



 どれだけこれを


    恋だと正当化しても ―



  どんなに辛い別れが来ても ―




 私は信じることができなかった。
このまま夢を見ていたいと願っていた。
それを彼が肯定してくれたら
どんなにいいかと・・・。
しかし現実は私を
それほど甘やかしてくれない。


 彼は終わりを選んだ。
彼は仮面の恋人が
欲しかったのかもしれない。
でも街にいるような恋人に
なりたかったのかもしれない。

価値観の相互。
私はそれを受け入れなかった。


特にこれといった損害はない。
そう思うけれど
心の底から悲しみが押し寄せてきて、
私自身の全てを埋め尽くしたような気がした。

涙が溢れた。
とめどなく溢れた。

理想の崩壊?
ゲームの終幕に感動して?

一体何が悲しくて泣いているのか
分からなくなるほど泣いた。




   これで全て終わったんだ。

       忘れよう、うん・・・。


< 38 / 52 >

この作品をシェア

pagetop