カイラムの買い物
「まったく、たかがノワルワルドを淹れただけで、自分の格好すら気にせず起きて来るんだからねぇ」

 薄い緑色のシャツとズボンという普段着に着替えたカイラムは、紅の向かいに座って、紅が用意した朝食を食べていた。

 朝食と言っても、堅焼きパンのトースト一枚とノワルワルドだけの簡単なものだった。

「当たり前です、この茶は本来、来客用に用意してある物なんですからね」

 と、言いつつも、カイラムは焼き立てのトーストと一緒に、ティカップのノワルワルドを一口飲んだ。

 香ばしさとほろ苦さそして、なんとも言えない甘味が口の中に広がる。

「来客用?」

 紅は自分に客が来たときにカイラムがこの茶を出したという記憶に心当たりがなかった。

「まあ、それはいいとして、なんで今日は師匠が朝食なんか作ったんですか」

 ほんとは、紅が居ないときにたまに遊びに来るポクン・ポーラーの女主人のためのお茶なのを心の中にそっとしまって、カイラムは訊いた。

「かわいい弟子の為」

「そういう冗談は嫌いです」

「そうかい、一応、弟子の事を大切に思ってるつもりなんだよ」

「どうせ、弟子がいないとギルドからの薬法師育成の補助金が貰えないからでしょ」

「よく判ってるじゃないか」

「やっぱり」

「まあ、冗談はさておき、これも昨日の儀式の続きなのさ」

「昨日のって……」

 そこで、ようやく昨夜のおぞましい出来事を思い出した。
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