よゐしこのゆめ。
それからも、2人はよく俺の藤の下で会ってた。
その度に仲が良くなる様子は、部外者の俺から見ても明らかで……。
でも、藤の花が咲き終わっても、女が手袋を編み終わっても
2人の距離は“友人”のままだったし、男は“フジ”のままだった。
でもそれからも、2人がここへ来なくなることはなかった。
だから、俺は安心して、その様子を見守り続けた。
覗きなんて悪趣味だって言われても、こればっかりはどうしようもない。
そうやってもどかしい光景を見続けるうちに、藤はまた、咲いた。
その後だ。男の名前が、“フジ”から“努”になったのは……――――
「それは、2人が恋に酔った証だったんだろうな。見てて微笑ましかったよ」
フジは、当時のことを思い出すみたいにやわらかい表情を浮かべた。
「じゃあ、“フジ”ってパパのことだったの?」
「そうなるんだろうな。“フジ”の話にはまだ続きがあってさ」
「続き?」
「そう。赤ちゃんの名前編。女のお腹が大きくなってきた頃に、ちょうど今俺達が座ってる場所で名前を考えてたんだよ。その子の」
それって、わたしのことなのかな……?
でも、“あゆみ”なんて、ありふれた名前だと思うけど。
「それさ、お前の親父さんが付けた名前だろ?確かに“あゆみ”って考えると普通の名前かもしれないけど、その漢字は珍しいんじゃないか?」