薔薇部屋
二十歳と大人の階段
同じ…変わらない…―それを望む者は、この世界にたくさんいるけれど、ミキにとってそれは哀しい事でしかなかった

いつもの朝
いつもの天井
いつもの紅茶の香り
「おはようございます、お嬢様」
そしていつもの綺麗で穏やかなハウスメイドの声

「…これは変わってほしくないわ…」
「…?お嬢様?」
「いいえ、こちらの話よ」

凡てが変わってほしいとは思わない
しかし自分がかごの中の鳥であることに変わりがない…―それが憎い、悔しい

「お嬢様、お誕生日おめでとうございます」
「え…」
いつも朝食が置かれる場所に、大きすぎるケーキが置かれる

『HAPPY BIRTHDAY Ms.Miki』
そう書かれたチョコレートボードが、三段のケーキの最上段に飾られていた

「旦那様が帰ってきてから、晩餐の時に出そうと思ったのですが、今朝早く出来上がりましたので、早くお嬢様に見せたくて」
年齢不祥な彼女…遠野は、ミキよりもずっと年上であるのに、ミキを喜ばせようと必死で、ミキに向ける笑顔は少女のようにあたたかかった

ケーキを嬉しそうに見詰めていると、突然明かりが消されてカーテンが閉められる
「…なに?」
ケーキにろうそくが立てられ、火がつけられる…―とても幻想的
そこに遠野の美しい声でバースデーソングが歌われる

ミキはしばらく忘れていた…―『幸せ』という言葉
今ミキの頭には、幸せというキーワードが浮かんだ

「さあ、お嬢様、火を吹き消して下さい」
うっとりとバースデーソングを聴き終わり、遠野に言われた通り火を吹き消す…―遠野の手拍子と共にカーテンが開けられ、部屋はいつもの明かりを取り戻した
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