桜に導かれし魂

思い想う









俺は初めて癌と戦う楓の姿を見た。


次第にやつれていく体。
抜けていく髪。
苦痛にゆがむ表情。

全部俺が変わってやれたらいいのに。
楓。



俺はあの日からいつも泣いてしまう。
でも君は絶対に笑顔を絶やさなかった。

いつもいつも俺が見舞いに来ると
「きょうちゃん、きょうちゃん」
と言って昔に戻ったように俺を
“きょうちゃん”
と呼び始めた。

きっと楓は思い出しているんだ、
昔のことを。覚えてていたいんだ、
あの日のことを……。

だから俺も楓を
“かえ”
と呼ぶことにした。




楓のいない学校はとてもつまらない。
いや、つまらないなんて言葉じゃ
表せれないくらい色あせてる。
色も、音もないんだ。

ここには光さえ届かなくて、
楓のいない学校が待ち受けていたのは
他でもない大きな孤独で、
1分1秒がとてつもなく長い。



いつもいつも
早く終われ、早く終われと
思い続けることしかできないけど、


会いたくてしかたないんだ。




そして今日も俺は楓の病室に足を運ぶ。
「かえ、体調どう?」
「きょうちゃん、大丈夫よ。
今日はなんだか調子がいいの」
「そっか、よかった」

楓が起きていてくれるだけでほっとする。
眠っていると死んじゃうような気がして
落ち着いてなんてられない。


「きょうちゃん、友達はできた?」

ギクッ
楓はなんでもお見通しか………………
「できて、ません………………」
「やっぱりね。
そういうと思ったから今日は
前に言ってた玲ちゃん
ここに呼んでるの!」

さすが彼女兼幼馴染。
楓の言動に肝心していると
扉の開く音がしたから楓のいう
“玲ちゃん”
かと思い後ろを振り向いた俺は唖然とした。


だってそこにいたのは………………
「玲ちゃん!いらっしゃい」
いや、いやね、
“玲ちゃん”
っていうのはあってるんですよ。うん、

たしかに俺の前にいるのは
“玲ちゃん”
なんだけど……………









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