愛の記憶
桜の君
千年前…――。

まだ貴族の男性は多妻制の頃
一途に想う女人と想いを貫きたく体は重ねるものの最後まで一人にしか愛を捧げなかった帝の話
そして、残酷に現在にまで切なく苦しい恋愛の輪廻を繰り返す物語
悲しい結末か、幸せな結末か
それはまだ…わからない






桜が散り始め
美しい薄桃の花弁が地面を覆う


大路を歩く、頭の中将の妹【桜の君】本名は【揚羽】
噂に流れる程に美人であり帝の正妻候補と言われる程に


長い黒髪は艶を帯び、まだ男性を知らぬ肌は絹の様、唇は桜の花弁の様で
通れば名前を口にされる


「(…正妻なんて…上辺だけよ)」

想い人は帝
だが帝なれば跡継ぎを残す為に大勢の女人と結ばれる

それが辛くて、正妻になど妻になどなりたくはない
そう願っていたのに、それは夜中
伝えられた


「喜べ揚羽、誰よりも早く中宮になれたぞ!帝のお側にいけるのだ」


「…そ…ですか…」


おめでとう、なんて嬉しくない
笑えない、泣きたい程狂おしくなっていく



「…春の君…」


帝の昔の呼び名
春の様な笑みから名付けられた彼
歳は普通なものの幼げな顔からはいつも哀しみが滲み出ていた



温かいお湯が肌を流れていく
冷えた空気は体を撫でていき、一瞬にして体は冷たくなっていて



牛車に揺られ、帝の元へと向かう途中
涙を流した、誰にもわからない様に


そして帝の側に行き何日か経った日
帝は揚羽の部屋を訪れ体を重ねた後呟かれた


「私いや、俺には帝と言う仕事がある…だが…お前しかいらないのに、お願いだ…私と自ら命を絶ち…死を選んで欲しい…」


その言葉は衝撃だったと共に、嬉しくて
揚羽は頷き、そっと昔となんら変わらぬ幼なじみを抱きしめた


その後日揚羽と帝は命を絶ち
ただの春の君と揚羽、一人の人間に戻ったのだ


そして1000年後
平成の世に生まれ変わりはいた


続く
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