月物語 ~黒き者たちの宴~



これであそこにはもう一生戻れない。



たくさんのものを置いてきてしまった。



たくさんの後悔を残してきてしまった。



烏が声を聞きつけようが構わないと思った。



とにかく今のうちに泣いておきたかった。



「今回は、身体もついておる。
黄宮の庭じゃし、いくらでも泣くがよい。」



「うっ、うん…鰯、喋り方戻ってる。」



礼は泣きながら笑ってみせた。



「それをお前が望んでいるから。」



見下す存在はいらない。



駒も盤上もいらない。



ただ欲しいのは、対等であれる存在。



“本当の自分”を見つめることのできる、場所。



それは用意されているものではない。



自分の手で創っていく。



< 331 / 334 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop