雨のち晴






ひどく愛しそうに、


あたしの名前を呼ぶものだから。






「違うっ」





思わずあたしは、


先輩を抱きしめた。


自分のせいで、あたしが


苦しんでるとでも言いたげな


彼を必死に抱きしめ。


違うと言い続けた。





「朱里」





「違う。違うよ。我慢なんかしてないっ」





「朱里がいてくれて、俺本当幸せだった」





まるで。


何かを悟っているかのように。






「朱里、藤田のこと、やっぱり好きなんだろ?」






静かに、静かに。


そう言った。






「え…」





「俺最低なんだよ。知ってて、でも放したくなくて言い出せなかった」





「諒…、せ、」





涙が邪魔をして、


上手く話せない。


たくさん伝えたいのに。


何も、言えない。






「藤田のこと、忘れなくていいとか言っておきながら。本当は嫉妬して狂いそうだった」






情けないな、俺。


自分をあざ笑うかのように、


そう言って。


あたしを力いっぱい抱きしめる。






「こんな俺なのに、傍にいてくれてるから。だから、大事にしようって。でも結果的に、苦しめてた。ごめんな、朱里」






どうしてこの人は。


こんなにも優しい人なんだろう。


普通なら、何で忘れてくれないんだと


責められてもおかしくないのに。






「あ、これ」





諒司先輩は鞄から袋を取り出すと、


あたしに手渡してくれる。






「さっき買ったやつ。持ってるの嫌だったら、捨てていいから」





そう言うと諒司先輩は、


自分の分を携帯に付けた。


そして嬉しそうに笑って、


可愛いと呟いて笑った。







「捨てないよ…、捨てるわけ、ないじゃん」






あたしはそう言うと、


自分の鞄に袋をしまい、


代わりに他の袋を取り出した。






「これ、気に入るか分かんないけど…」





「俺に、くれるの?」






あたしは黙って頷いた。


こっそり買った、


諒司先輩へのプレゼント。


大人気を書いてあったお菓子と、


小さなぬいぐるみ。







「すごく気に入ってそうだったから、つい」





「俺の宝物にする。ありがとう」





笑ってくれる。


あたしは何でプレゼントなんて


買ったんだろう。





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