甘い君の唇にキス~恋の秘密は会議室で~


あたしが担当している代理店に見積書を提出したばかりだった。

年間契約の大口の見積書のため、いつも以上に金額も大きい。

しかも、この代理店の担当者が恐ろしく嫌味な男で、何かと難癖をつけてはあたしを困らせてくるのだ。


見積りの訂正を申し入れた時の反応が容易に想像出来て憂鬱になった。

朝イチで電話を入れると、担当者の島田は開口一番、鼻で笑ったような息を漏らした。

電話口でその様子は確認出来ないけれど、イジメの対象の弱みを握った者が醸し出す陰湿な空気が感じ取れた 。


それから約30分の間、あたしはひたすら島田の嫌味に相槌を打ちながら見積りの差し替えを申し入れた。


これも営業の仕事。我慢するしか仕方がない。

斜め前に座っている孝太の心配そうな顔が視界に映ったけど、気が付かない振りをした。


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