眠れぬ夜は君のせい
章子も知らない…?

「それに血のない死体なんて出ていませんわ。

むしろ平和が続き過ぎて、ヒマでヒマで仕方がないってぼやいているくらいですわ。

何かおもしろい事件が起こってくれないかなんて、お父様ったら少年みたいなことをおっしゃっていらっしゃるのですのよ?」

楽しそうに笑いながら話す章子に、俺は何も言い返せなかった。

いや、何も言えなかった。

誰も、あげはのことを知らない。

それだけじゃない。

吸血鬼の事件すらもなかった。

最初からあげはの存在も、吸血鬼の事件も、何もなかった。

まるで切り取られてしまったかのよう。

「それにしても、どんな怪奇小説をお読みになっていたのですか?」

章子の質問に、俺は何も答えられなかった。
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