魔王様はボク

立ち上がり、窓へ向かった。

空には相変わらず綺麗な月が浮かんでいる。

月に向かう気持ちねぇ…。
それはどんな気持ちなのだろうか。

行きたいと願う?
別に月に行きたいわけではないのだけれど。

難しい。

そんな気持ちでなければその権利はないのだろうか。
別の世界に行く権利。

もしも、行けなかったら?
その前に、あの猫の嘘だったら?

ボクの夢だったかもしれない。
幻覚だったかもしれない。

…幻覚だったらさすがに病院に行かなきゃいけないレベルだけど。

うん、余計な考えはやめよう。

構わないじゃないか。
嘘でも夢でも。

ここで死んでも構わない。

今まで生きてたのは、生きたいからでも、死にたくないからでもない。

タイミングが分からなかっただけ。
だからこそ、これはいいきっかけなんだ。

別の世界に行く。
それは望ましい。
ここで死ぬ。
それでもいい。

吉しかない賭け。

ボクは窓枠に足をかけ、躊躇いなく飛んだ。

「麗音っ!?」


凜音の声が背中に聞こえた。

そういえば誰にも話してない。
凜音にも。

ごめんね。
びっくりしたよね。

君のことは好きだよ。
でも一緒にいたいという好きじゃないんだ。
どちらかというと憧れに近い。

双子のはずなのにおかしいかな。

ああ。
なんだか意識が遠くなる。

2階から落ちたはずなのに、いつまでも落ちている感覚。
地面が来ない。

お、不思議な表現。
地面が来る?
あはは、なんだか歩いて来るみたいなイメージだな。

視界が白くなる。
瞼が重い。

たまには理性を無くすのもいいよね。
もういいや。
意識を手放してしまえ。

ブラックアウト。

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