金星
教室 by jum

夏休みの間、一度だけアズミの姿を駅前で見かけた。


エクステを取ったようで、ボブくらいの髪型になっていて、

楽しそうに同世代くらいの男性と一緒に買い物をしていた。


それを見て、俺は安心していた。


それから、親父から俺の記憶と母さんのことを聞いて、

10年以上ぶりに母さんに会って抱きしめられて。


恋だの愛だの、そういうのは良く分からないけど、

これからは一緒にいて楽しかったり、守ってやりたいと思うような女ができたら、

そいつとしっかりと向き合っていきたいと思っていた。



「行くなよ……」



雨の音が漏れてくる教室の中。


このまま優奈がどこか遠くに行ってしまうような気がしたため、

俺は思わずその腕をつかんでいた。
< 307 / 358 >

この作品をシェア

pagetop