Bitter or Sweet?
電車の揺れに身を任せて
自宅の最寄駅のホームで電車が来るのを待っていると、

不意に通りすがる風の薫りを感じた。


まだ少し冬の薫りがあるが、どこか暖かい春の薫りも交じっていた。


この微妙な時期に感じる風を、私は大好きだった。


そんなことをぼんやりと感じていると、


電車が、私のいるホームに入ってきた。


誰も降りてこないドアから電車に乗り込む。


車内は閑散としていた。


昼間だからだろうか。



乗っているのは、お年寄りか、春休み中の大学生くらい。


誰も座っていない長椅子の真ん中に座った。


電車の発車ベルが鳴り響いて、ドアがゆっくりと閉まっていく。


そして、ゆっくりと発車していく電車。


心地よい揺れを感じながら、私は電車の窓から外の景色を見ていた。


流れていく景色は、冬から春へと変化していく姿がよくわかる。


ただの枯れ木のように見えた桜の木の枝先には、ふっくらと膨らむ蕾が見える。


線路の近くを歩く人々の服装も、暗い色から明るい色へと変わりつつある。


春が近い。


そう思えるだけで、少し幸せな気分になれた。


< 5 / 14 >

この作品をシェア

pagetop