双子月
瑠璃子が我を忘れたように本音を晒していた時、雄一はぼう然としていた。


それは、不倫をしている事がばれた事への焦燥感なのか。

それとも、こんなにも乱れている瑠璃子へのフォローを考えていたのか。


きっと、そのどちらでもないのだろう。


瑠璃子が
真朝が
剛が


何か声を張り上げて言い合っている。

けれど、音がすごく不透明だ。

耳に入ってくるのに、実がない。



瑠璃子がついに泣き出してしまった。

涙を拭ってあげなければと思う。

けれど、視界がすごく不透明だ。

目に見えているのに、実がない。



それは薄いカーテン1枚で遮られた向こうの世界で繰り広げられている、自分とは関係無いような、ありふれた三流映画のようだった。


(あぁ、何で俺はここにいるんだろう、何をしているんだったっけ…?)


そんな雄一の目を覚ますかのように、剛が雄一の胸ぐらを掴み、


「何、関係ないみたいな顔してんだよ!
瑠璃ちゃん、泣いてんだぞ!
お前も当事者だろ!?」


と、1発、ガツンと雄一の顔を殴った。


同時に瑠璃子と真朝が叫ぶ。


「雄一さん!」
「剛!」



雄一は、やっと我に返ったようだった。



< 110 / 287 >

この作品をシェア

pagetop