双子月
「朋香、汗、掻きすぎ…」


光弘が笑った。

朋香は鼻をすすりながら、


「うん、ほんと、暑いね…
…こんなに熱い気持ち、久しぶり…」


と呟いた。


「俺、朋香を背負ってる今は汗を拭ってあげられないけど、一緒に並んで歩けるようになったら、汗でも涙でも何でも拭ってやるよ。」


朋香は光弘の背中に顔をうずめた。


光弘は汗を流しながら、一刻も早く朋香を保健室に連れて行こうとした。


そして、早く朋香の今の顔を見たい。

何でこんな気持ちになるんだろう。



昨日までは、特に意識していなかった。

さっき、うずくまっているのを見ている時までは、特に意識していなかった。


辛そうな朋香を見ての同情?

いや、辛そうな人なら今までに何人も見てきた。


どうして、急に朋香に対して特別な感情が湧いてきたのだろうか。

恋愛とは得てしてそういうモノなのだろうか。

苦しそうな朋香を見ても、可哀想と想うよりも可愛いと想う。


付き合い始めた大学1年の夏、桜はとうの昔に散って、涙の洪水のような梅雨も明けていた。




< 161 / 287 >

この作品をシェア

pagetop