双子月
ただ1つ問題があるとすれば、自分は、林先生の手も借りないと完全には立てないという事だ。

けれど、それが光弘を苛立たせている原因の1つだと分かってしまった。



今、診察に行くのを辞める訳にはいかない。

それは光弘の為でもあると、朋香は想っていた。


自分でもコントロール出来ない気分の不安定さを、光弘が受け止めきれるだろうか。



イヤ、違う…


光弘の為じゃない。


それは朋香が認めたくない、都合の良い口実だ。

光弘が病気を重たく感じて離れていってしまうのが怖い。

ただ、それだけ。



全面的に光弘を信じきっているつもりだった。

だけど、気付いている。


一緒にいる安心感よりも、失ってしまったらどうしようという、未だ見ぬ先の不安に駆られている自分がいる事に。

手放しで光弘に甘えている。



光弘に、

『朋香は俺がいないと駄目だなぁ』

と想わせるように、徹底的に甘えている。


だけど、度が過ぎると、どうなるのだろうか。


『朋香ばかり俺に寄っかかってきて、俺が苦しい時は何をしてくれるんだよ』


そう言われるのが怖い。


どこが限界点なのか分からない。

分からないから、まだまだ甘えてしまう。

きっと気付くのは、その不安が現実になってから。


『あぁ、この1歩手前で止めておけば良かったんだ』


という、意味のない後悔をするのだろう。


手に入れている感触が確かにあるからこそ、それが砂のように指の隙間から零れ堕ちる時が来る事を考えてしまって怖いのだ。



< 163 / 287 >

この作品をシェア

pagetop