双子月
『ただいま電話に出る事が出来ません』


携帯のアナウンスがそう告げたので、光弘は通話終了ボタンを押した。


「せっかく1時間早くあがれたのになぁ…」


と溜息を付いた。


携帯に出ないなんて珍しい。

家でバタバタ準備中なのだろうか。

それとも街の雑踏の中で気付いていないのだろうか。



(仕方ないな…)


光弘は、

『もうあがったよ
いつもの喫茶店で先に待ってるから』

と朋香にメールを打って、ファミレスの裏口から出た。


(去年のクリスマスはブレスレットをあげたよな…
今年は…指輪をあげたいけど、まだ早いか…?
それにしても、女性物ってたくさんありすぎて迷うんだよなぁ…)


いつか朋香が、


『男物は少なすぎて選ぶのが難しい』


と文句を言っていた事を想い出して、光弘は笑った。


(お互い様って訳か)


光弘もすっかり仲直りした気分でいた。



すると携帯のメール音が鳴って、

『今から家を出ます』

と朋香からのメールが届いた。



(じゃ、寒いし、行きますか)


と光弘が喫茶店に向けて歩き出そうとした、その時だった。



「…嫌です、放っておいて下さい…」


という女性の声がしたので光弘は辺りを見回した。

よく見ると、1人の女性を、男性が3人がかりで囲んでナンパをしているようだった。


(この寒いのによくやるよ…)


なるべく関わり合いになりたくなかったが、よくよく声を聞き、女性の顔を見てみると、なんと瑠璃子だった。


「瑠璃子!」

思わず光弘は叫びながら駆け寄った。


「すんません、俺の連れなんで離してください!」

と光弘は、男3人相手に物怖じせず、そう言った。




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