双子月
「私、自分の病気のコトで精一杯で、そんな大それたコト出来ませんよ。
最近は、薬を飲んだ後の記憶が曖昧になるコトも頻繁だし…」


林先生は朋香の方に向き直り、言った。


「何もしなくて良いんだよ。
あの子は自分という存在を認めて欲しいだけなんだ。
だから『雫』という子が確かにこの世に存在していて、誰かと通じ合えていると想えれば、それで充分なんだ。
少しだけ、彼女の事を頭の隅に置いて生活してあげてくれないかい?
もちろん、自分自身を一番大切にしなければいけないけどね。
辛い時は正直に辛いと言ってくれて良い。
雫も、朋香ちゃんを苦しめる事は望んでいないからね。」


頭の隅に置くどころか、頭の中を雫の事で染められている気分にさえなる。


辛いというよりは、疑問が多すぎて、正体が不明すぎて疲れるのだ。


「そうそう、記憶が曖昧になるんだったね。
薬をちょっと変えてみようか。」


処方箋を書く林先生に、朋香は緊張しながら質問をした。


「…先生と雫の関係は…
いったい何なんですか…?」



「…特別な治療関係…という事にしといてくれないかな?
…個人情報だからね。」



普段は個人情報なんて二の次のくせに…。

極上の微笑みで、軽くかわされてしまった。


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