双子月
そんな中、光弘だけは遺品に手を付けず、ただただ部屋の中を見つめていた。


(遺品…?)



俺が欲しいのはそんなモノじゃない。

あの子の全てが自分のモノになるはずだった。


誰にも渡さない、誰にも穢れさせない、自分だけの白い天使。

赤い唇の柔らかさと紅い血を流していた左手首、そして噛み付いた時に、夏のカラフルな花火の音を想い出させるような音を立てた心臓しか知らないけれど、身体の隅々までもが自分だけの虹色の宝石。


黄色と青色のお揃いのマグカップも
頬を桃色に染めて写ったプリクラも
水色を基調としたこの部屋も
あの子がいないと色が無い
意味が無い



貴女といると素直になれた
心の底から『愛してる』
愛しい貴女の為だけに
泣いて笑う自分が好きだった



でも…今は…



ざわつく人混みの中で
自分がそこにいるのかいないのか
分からなくなる
皆に色が付いていて
自分だけ灰色のようで
流れる色とりどりな景色を
ただボンヤリ見ているような



夢なのか現実なのか分からない。



でもね、泣いてなんかいないんだよ。
だって貴女は俺に、別れの言葉を口にしていないから。


貴女のゴールが俺達の新しいスタートになるなんて、信じてないから。



そう、貴女はずるい
あの時は綺麗な色の花の中で微笑んでいたから許してしまったけれど
この世の何処を探してもその姿がないと知ったら
再びその姿を探して彷徨うしかないじゃないか


見つけるまで泣けないじゃないか
見つけるまでゴール出来ないじゃないか
見つけるまで新しくスタート出来ないじゃないか


貴女が皆を…
俺をここに立ち止まらせてしまうんだよ





< 231 / 287 >

この作品をシェア

pagetop