双子月
「あぁ…はぁ…と、ともや…」


雫は微かな声で智也の名を呼ぶ。


「ここにいるよ?
僕は雫から離れないよ?」


智也の服を掴む雫の手は震えている。

震えていながらにして、力強い。

決してほどけないように。


「ほら、薬の時間だよ。
お水、持ってくるからね。」


智也は自分の家のように、当たり前に食器棚からコップを取り、冷蔵庫からペットボトルを取り出す。

そしてコップを水で満たし、洋服ダンスの上に置いてあるピルケースから8錠のタブレットを出して、雫に差し出した。


雫はまだ息が上がっている。

智也は雫の背中をさすり、コップを手渡した。


そして、1錠ずつ飲ませる。

睡眠薬も含まれているので、直に眠りに落ちるだろう。


「智也、智也、ごめんなさい…ありがとう…」


ベッドに横になった雫の手を握りながら、もう片方の手で雫の頭を撫でる。


「おやすみ、雫。
またね…」



雫が眠りに着いたのを確認して、智也は後片付けをした。

雫が暴れた痕跡を全て隠す。

それが智也の1番大事な仕事。


そして雫の家を後にしたのだった。



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