双子月
「それじゃあ、おばあさん、裏の竹林に行ってくるからの」

「はいはい、私は川へ洗濯に行ってきますよ」



「よっこらせ、この歳になると山へ登るのも一苦労じゃのぅ
今年もたくさん筍が取れればいいんじゃが…」

「おぉ、ここら辺はたくさん生えてきておるのぉ!
おばあさんも喜ぶじゃろう
…はて、この竹だけが輝いて見えるのは気のせいかな?」

「よいせっ!
…こりゃ驚いた…
竹の中から、眩しいばかりの小さな娘が出てきおった
どこの娘とも知らぬのぅ…
きっと子宝に恵まれなかったわし等への、仏様からの贈り物に違いない
ありがたや、ありがたや…
我が家へ連れ帰って、立派に育てようぞ」



「あらまぁ、おじいさん
その輝いた可愛らしい娘はどうしたんですか?」

「こうこうこうこう、こう言う訳じゃ
お前さんは川の上流から桃が流れてきたりせんかったか?」

「桃?
何を言っているんですか、おじいさん」

「いや、年寄りの独り言じゃよ…
それよりこの娘、かぐや姫と名前を付けてはどうかね?」

「まぁまぁ、何て素敵な名前でしょう!
きっと愛らしく育ちますよ」

「将来が楽しみじゃのう」

「そうですねぇ」




「しかしまぁ、気長に待つつもりじゃったが…
三日でものの見事に年頃の娘に育つとは思ってもみなかったなぁ」

「そうですねぇ
でもまぁ、本当に何て美しいのでしょう」

「いやいや、お前さんも若い時は負けておらんかったよ」

「いやだわ、おじいさんったら、おほほ…
それじゃあ、まるで今は…」

「いやいやいや、そんな事は一言も言っておらんぞ!
お前さんは今も充分に美しい!!」

「まぁ、そういう事にしておいてあげましょうかねぇ
おほほほほ…」

「笑顔が怖いのぅ…」



「しかし、困ったものじゃなぁ」

「何がですか?」

「かぐや姫の噂じゃよ
今やこの『平安区』で…
いや、『日本国』で一番の美女とまで謳われておる
たった三日なのに、最近の情報網はすごいのぅ」

「そうですか
それでこんなにも殿方が家の周りをウロウロしているのですね…
しかし、肝心のかぐや姫はそうとも知らず、一番奥の部屋で襖を閉めて機織ばかり…
これでは鶴になってしまいますわ」

「まぁ、良いではないか
そう簡単に嫁には出せぬよ」

「そうですね
さぁ、ご飯にしましょうか」


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