双子月

9…暗雲立ち込め月を乱す

劇が終わったからといって、すぐに全てが終わりではない。

まだピリピリと張り詰めた空気の中、大道具を片付けたり、音響機器を返したりして、皆バタバタと走り回っている。



特に美術サークルの朋香はこの劇の背景に多くの時間を費やし、学祭用に新しく絵を描き下ろせなかったので、背景を展示する事で部長の許可を得た。



同様に手芸サークルの美穂も、十二単や貴族衣装などを展示品として出品し、試着出来るようにする事で難を逃れた。

2人共、演劇サークルの人達に手伝ってもらって、自分達の作品を新校舎の1F展示室に移動させた。



そしてようやく片付けが終わった時。

講堂の舞台裏に全員が集まった。

緊張と疲れの中、シーンと静まり返っている。


その静寂を破ったのは演劇サークルの部長だった。


「…はにゃ~…」


「…え?」


どんな労いの言葉が出てくるかと思えば、一言目が意味のよく分からない擬音。

しかし、それが逆に良かったのだろう、皆の肩の力が一気に抜けて、大きく一息付けた。


ちらほら皆に笑顔が戻ってくる。

そして部長が軽く頭を下げた。


「今年は例年以上に人手が足りなくて、こうして出し物をする事自体、危ぶまれていました。
けれど、たくさんの有志の皆様のおかげで、こうやって無事に終える事が出来ました。
本当に感謝しています。
演劇サークル部員を代表して、厚くお礼申し上げます。
この通り、予算も何もかもが少ないサークルではありますが、ささやかな打ち上げをしようと思っています。
ぜひ参加して下さい。
では、今日はここで解散にしたいと思います。
皆さん、ゆっくり学祭を楽しんできて下さいね。」




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