夏の空を仰ぐ花
あたしは補欠に抱き付いたまま右足を伸ばして、健吾の自転車をガシャンと蹴っ飛ばした。


「うおっ」


健吾が自転車ごとふらつく。


あたしは健吾を睨んだ。


「離れるもんか! バカめ。悔しかったらお前もやってみろ!」


「なにーっ」


健吾は体勢を立て直して、自転車にまたがったまま、


「いいか、響也」


今度は補欠の肩に掴みかかった。


「まだ間に合うぞ。もう一回、冷静によーく考えろ」


いつになく真剣な目で、健吾が補欠の顔を覗き込む。


「何がだよ」


無表情で補欠が首を傾げた。


「翠のことだよ。いいのかよ、こんな狂暴な女で。本当にいいのか?」


じりじりと顔を近付ける健吾に、補欠はプッと吹き出して、腰に回したあたしの手を握った。


「うん。いいんだよ」


お……おお。


ジーザス。


健吾が豆でっぽうをくらった鳩のような顔で、口をあんぐりさせた。


「翠がいいんだ」


……強烈だ。


朝っぱらから、なんと強烈な言葉か。


翠がいいんだ、なんて。


逆にあたしの方が固まってしまった。


「翠がいい」


補欠は、どれくらいあたしをドキドキさせたら気が済むんだろう。


翠がいい。


まるで補欠の物になったような気がして、ドキドキした。


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