夏の空を仰ぐ花
あたしは、母にそっくりだ。


母から戴いた自慢の目に太いアイラインを引き、ボリュームマスカラでデコレーションを施す。


メイクの手本は、部屋の壁中を埋め尽くすポスターの中の姫君。


「神だべ!」


頬のてっぺんに元気色のオレンジチークをぐりぐり塗りたくりながら、姫君に忠誠を誓う。


「あゆ様! そなたはあたしの神じゃ!」


大好きなあゆの歌を口ずさみながら、金ぴかの髪の毛をアイロンで真っ直ぐに伸ばす。


「エクセレンッ!」


鏡に映るあたしは、美容整形並の大変身を遂げる。


「美しいというのは……罪なのだな。困ったものよ。のう」


だがしかし、だ。


料理、裁縫、掃除……とりあえず家事全般は壊滅的に全滅。


成績表を開くと家庭科の評価は、いつもアヒルだった。


【2】


仕草も言葉使いも、女の子らしくできない。


でも、メイクとかネイルだとか。


美容に関する事だけは何故か得意で、お洒落に目覚めた中学2年生の時から器用にできた。


パジャマを脱いで、ベッドにべんべん放り出す。


「本日より、花の女子高生! バンザーイ!」


無防備な下着姿で万歳三唱しているところに、


「なーにがバンザーイだ! 風邪引くぞー」


バカ娘が、とノックもなしに豪快にドアを開けて、母が乱入してきた。



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