夏の空を仰ぐ花
「あー、扁桃腺が赤くなってるね。風邪だね」


薬出しておきますね、と白衣の医師がカルテにミミズのような文字を綴るのを、


「へい」


あたしはぼんやりと見つめていた。


シュウシュウ、加湿器から水蒸気が噴き出している。


「それじゃ、待合室でお待ち下さい」


お大事に、と看護師さんに言われ立ち上がろうとした時、


「あの」


とっさに、母が口を開いた。


「先生」


「どうしました?」


医師とあたしは、同時に母を見つめた。


「あの」


母の表情は固く、真剣だった。


「ついでなので、いいでしょうか。気になっていたんですよ」


気になっていた?


あたしは熱のせいでぼんやりしながら、母を見つめた。


「いいですよ。どうなさいました?」


回転椅子を半回転させて、医師が母に微笑みかける。


胸のネームプレートに、前田、と書かれていた。


「この子」


と母があたしを見つめる。


「最近、毎朝頭痛で。毎日、市販の鎮痛剤を飲んでいて。毎日、毎日」


前田先生の表情が少し、変化した。


「毎日、ですか?」


「ええ。もう1ヶ月半になるでしょうか」


「1ヶ月半?」


「はい。酷い時は1日に3回も飲むんです」


そういや、そうだな。


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