夏の空を仰ぐ花
本当に、大嫌い。


大嫌い……だったよ。


先輩。


夏井くん居ますか、って、突然一年生の教室に乗り込んで来たあの日から。


あたしは、涼子さんのことが嫌いだった。


睨むあたしを、涼子さんがじっと見つめ返してくる。


隣で、若奈ちゃんがクスクス笑った。


「あーあ、せいせいする!」


抱える花束から仄かに甘い香りがして、つい、泣きそうになった。


本当に今日で最後なのかと思うと、たまらなくなった。


もう、廊下ではちあわせになることもないんだな。


「ほんとに大っ嫌いなんだから! まじだからね!」


あたしが威嚇しているのに、涼子さんは面白そうにふふふと笑った。


相変わらず、清楚かつ可憐に。


「うん。知ってる」


「これでライバル居なくなるし。卒業してくれてせいせいするし!」


だけど、当たり前のようにこの校内ですれ違うことももう無いのかと思うと、寂しくてたまらん。


先輩。


もう、張り合う事もないのかと思うと寂しくて、泣けてくる。


先輩。


数秒と要さなかった。


その時すでに、一気に込み上げて来て、あたしは泣いていた。


「先輩!」


あたしが泣いたとたん、涼子さんが表情を歪めた。


「やだ……なんで泣くの、翠ちゃん」


何でかな、先輩。


「嫌いな先輩が居なくなって、ハッピースクールライフが始まるってのに」


何でかな。


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