夏の空を仰ぐ花
「それを言うなら“余計なお世話”! 翠さあ、英語は得意なのに、日本語はダメだよな」


やかましいわい。


「余計なお世話じゃ!」


「おーこわこわ。触らぬ翠に祟りなし」


クククと笑いをこらえながら、結衣は着々とマスカラを重ねていく。


キレー。


風に揺れる結衣の赤い髪の毛が、午後の陽射しを受けて琥珀色の宝石みたいに輝いていた。


風にはためく、掲示物。


チョークの粉だらけの黒板。


運動部や文化部が居なくなった、放課後の教室。


少しがらんとする、この時間帯の教室が意外と好きだったりする。


みんな、他愛もない話題で時間をつぶして、それからだらだら帰る。


南高に入学して、5ヶ月が過ぎようとしていた。


「ぐは……今年の残暑は……厳しい……ぜ」


臙脂色の蝶ネクタイを緩めて、あたしは机の上にだらしなく伏せた。


暑い。


いやしかし、暑い。


帰りのホームルーム後の教室に、ゆっくりと傾きながら陽射しが迷い込んで来る。


「あー、それさあ」


と結衣はまだマスカラを重ねながら、呟くように言った。


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