夏の空を仰ぐ花
15時50分。


昼間は、アブラ蝉がジイジイ鳴く。


夕方になると、選手交代。


ひぐらしがカンカン鳴く。


16時になると、ここに補欠がやって来る。


夏休み、野球部はとにかく練習一色で、会える時間は夕方くらいだった。


だから、ほとんど毎日、この時間に待ち合わせて補欠と会っていた。


いつもなら、この一分が一時間に感じてしまうほど、長く待ち遠しくてたまらないのに。


早く会いたくて、イライラするほどなのに。


今日はそんな気分になれなかった。


さすがに、きつかった。


かなり強烈な衝撃だった。


いずれは手術が必要になるだろうとは思っていたし、覚悟はしていたけど。


まさか、こんな時期にそれが訪れるとは予測できなかった。


頭上の枝葉の隙間から、八月の西日が燦然と降り注ぐ。


もうじき夕方だってのに、肌を焦がすような陽射しを受け止めながら、あたしはベンチにもたれかかった。


「手術……かあ」


と、なると、入院が必要になるわけで。


その休んでいる期間の理由、言い訳をどうしようか。


アメリカに短期語学留学にでも行くか。


「……ありえんだろう」


考えても考えても、浮かんでくるのは「イカニモ」な、明らかに突っ込みどころ満載なものばかりだった。


さすがにもう、そろそろ限界なのかと思う。


もう、隠し通せないところまで来てしまったのだと思った。


いつまでも肩肘張っていられないのかもしれない。


< 411 / 653 >

この作品をシェア

pagetop